デジタル金融FinTech

デジタル通貨の流通(下)

 この記事は同名の記事(全2回)の後半分になります.
 この記事では,デジタル通貨の流通について書いています.なお,いわゆる仮想通貨のことではありませんので,その筋でこのページに来られた方には,あまり有用ではないかと思われます.
 ここでいうデジタル通貨とは,各国の中央銀行が発行すると目される,現実の通貨に相当することになるであろう,デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currencies)のことを指しています.
 前半部分では,デジタル通貨の定義,世界の動向,日本の現状などまとめてきました.

どのように実現するか

上下分離方式の利点とは

 「公的な主体がインフラ部分を整備し、民間業者がそれを活用したサービスを提供して競争するやり方」(上記リンク)は,あらゆる事業に通じるあり合える姿だと思います.基本的なルールに基づいて,インフラ部分は作り,それを活用して事業体が社会的利益につなげていく.この形は理想であると同時に,もとのインフラ自体の整備がどれだけフレキシブルなものであるかというのも重要で,社会全体を硬直させることにならないよう,流動性を担保しつつ堅牢なシステムを作っていくことが求められます.
 

完全自由競争のメリットとデメリット

 完全に自由競争に委ねてしまう方法にも利点はあります。しかしキャッシュレス決済、特にQRコード決済でいろいろなプラットフォームが乱立している状況をみると、ユーザーにとって利便性が高いかと言うと疑問です。公的セクターが土台を整備した上で競争したほうが、既に消費者サービスにノウハウを有する金融機関以外の企業も含めて平等に競争できるという考え方です。
 あと、これは日本の固有問題かもしれませんが、金融セクターの収益性が下がっていることに対する懸念が日銀にはあるかもしれません。つまりデジタル通貨の普及について金融セクターに任せきりにすると、思い切った投資をしてくれないかもしれないからです。

『デジタル日本円』は必要か、「日銀による暗号通貨」は実現するのか──NRI井上氏インタビュー【中銀デジタル通貨・CBDC】

 このように,事業体ごとのデジタル通貨を認めていくのも一つの方法かとは思います.ユーザーとしては利用が煩雑になるものの,自由な競争によるサービスが充実するのも一方で期待したいところです.これは,ユーザーとしての主観ですが,種類はいくつあってくれても良いけれど,店によって使えるかどうかが違うから困るというのが本音というところです.この部分,つまりインフラ部分を公共事業として支援してくれるというのは,一つの在り方だと思います.

課題は?

 先のレポートを見るとCBDCを用いる動機と課題についても,以下のような点が触れられています.

中央銀行がCBDCに関心を持つ背景には、多種多様な動機がある.新興市場国と先進国の間の違いは特に顕著であるが、個々の国・地域の状況によっても大きく異なる(Boar et al (2020)).本報告書に寄稿している中央銀行にとって、第一の研究動機はCBDCの支払い手段としての利用であるが、第二の動機(例えば金融政策ツールの強化)もある.CBDCはこれらの動機の多くを満たすことができるという点で特別なものではなく、CBDCのデザインにおいては,全ての動機を同時に実現することができないという社会的選択を必要とすると思われる.

国際決済銀行によるレポート

つまり,現在、焦点となっている,「決済のためにCBDCを提供すること,あるいは中央銀行の資金への幅広いアクセスを可能にし、レジリエンスを提供すること」(p.5)や,「増え続ける国境を越えた決済や,金融政策ツールの実現など、追加的な要件を考慮した場合に求められる,改善や現実的な課題とリスクの存在など」がCBDCの動機になっているものの,それらの判断には,あちらを立てればこちらが立たない社会的選択がつきまとうということですね.こうした社会的選択は,あらゆる技術の本質であり私たちが新しいテクノロジーと付き合って行くに当たって,常に考慮されるべきものと言えます.安易に踏み出すのではなく,社会的な副作用を考慮した上で進めていくと言う意味でも,社会実験を繰り返すことは,必要なプロセスと言えるでしょう.

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